01.はじめまして
薄桃の葉書に一言 震えた文字で 生まれましたと
名前なく住所もなく 消印があなたの住処を私に教える
はじめまして そう言える日を夢見て 痛む胸をただ抱きしめていた
02.秘めごと
小指に白いネイルで 小さく願い事を書いて
その上を真っ赤に塗った
背中の骨がきしむたびに 小指を噛んで
呪文を繰り返す
私は弱くない 私は恵まれている 私は美しい
一夜の澄んだ熱が 私を根元から造り変える
赤い爪先に 貴方が口付けた
痛み
03.鬼
爪紅の血の色 花開く夜の
あなたの滲んだ肌は 美しい
瞼に張り付いた睫毛の先
ため息のように 涙が落ちた
私は 壊れていく 一瞬ごとに
貴方に見つめられ 暴かれ 削ぎ落とされて
爪紅の血の色 花開く夜の
曇り空に小さく叫ぶ 啼鬼の喘ぎ
04.遊園地
ゆらり ゆらりと 中空に漂って
頼りなく揺られているのは
私の体なのか 心なのか
二人きりのゴンドラ 何一つ言葉を交わさずに
汚れたガラスの向こうの 海を眺めている
幸せなはずの時間が
曇った視界のように 歪んでいる
05.雨
体の中に降る雨は 冷えた体を裏切る 熱
しとど濡れた体を開いて
私を抱く空に 叫ぶ
対象のない苛立ちと想い
胸をせり上がり 瞼から流れ出す
私だけの 雨音
06.レトロ
壊せ 壊せ 壊せ
ひび割れた頭の中 狂ったように叫ぶ
古臭い野望 萎びた愛情
壊せ 壊せ 壊せ
私という入れ物を作り上げた
私という名の理想
壊せ 壊せ
壊せ
07.携帯電話
繋がっている 繋がれている
デジタルの紐
手の平の中に あなたの声が潜んでいる
繋がれた 私の胸
耳から流れ込み 私を満たして
全てを奪っていく
冷たく無機質な金線の隙間に
潜んでいる 0と1では割り切れない
貴方と私の関係
08.境界
誰に咎められることなく 叫べたら
ここからは私の領土なのだと
貴方の瞳も腕も背中も
全ては私の領土で
誰一人として 侵してはならないのだと
目に見えない境界線の向こうから
狂った私が泣き叫ぶように
09.冷たい手
きしむ背骨の下で
貴方の体温が消えていく
動かない心臓の下
私は嘆く術もない
そっと胸に寄せられた指が冷えて
私は独りで 貴方の死を知る
10.ドクター
私を掬って
その真っ白い翼と真っ白い手で
私の腹部を裂き
悲しみの種を取り出してください
背骨の中ほどに食い込み
キリキリと体を締め上げる
恋の種を取り出してください
11.37.5
エッグスタンドの上
パリパリと殻を割った
剥き出しにされた私の精神と
剥き出しにした言葉の応酬
貴方を亡くした
微熱の海
12.罪
美しいものが見たい
美しいものを聴きたい
美しいものを着て
美しい夜明けに触れたい
永遠に紡がれていく
夢と欲で紡がれた紐で
私の首を締めてください
13.螺旋
生きていると叫んだ 貴方の
しなやかに盛り上がった
肩の筋肉
私の中で荒れ狂う怒りを研ぎ澄まして
私の中の螺旋の本能で
貴方の凝った楔を締め上げ
いつか 愛していると言わせてやる
14.きせき
すすき野原に 月が落ちていく
ゆらゆらと揺れる銀色の穂先が
地の底に手を振る
オイデ オイデ と
朝方 穂先から落ちた露が
誰も知らない輝石になって
私の気持ちを代弁し続ける
15.シンドローム
私が触れるもの全てを 霧雨に変える
冷たいくせに 冷たさを感じないように
痛いくせに 痛みを感じないように
優しさを感じないように 温もりを感じないように
私が触れるもの全てを
私を幸せにするもの全てを
霧のような雨に変えて
あなたを待つ
16.涙
明け方に咲いた花の中に 一粒
夕暮れに枯れる花の中に 一粒
夜更けに芽吹いた双葉の奥に 一粒
夢の中で笑った貴方の写真に 一粒
明け方に凍りついた
私のレプリカの頬に 一粒
17.君は誰
膝を抱えて 薄暗がりの中に座っている
爛々と目を光らせて
いつか飛び掛る隙はないかと
血と涙に飢えて
世界の全てを拒絶する
私と同じ顔をした あなた
18.砂糖菓子
天辺から爪先まで 食べてあげる
甘くコーティングした毒で
一息に心臓を止めてあげるから
傍にいると言って
私が好きだと言って
私の全てを 食べさせてあげるから
19.予定外の出来事
誰も居ない深夜のベンチで
ひっそりとあがる紫煙を眺めながら
月を見ていた
下向きの三日月が
泣いているようで
貴方を思う
不意に巡る シプレーの罠
遠くに現れた人影
下向きの三日月の下
幻でも よかった
20.モノクロ
罪悪と夢 神なるものと罠
密やかに過ぎていく
私と私ではない獣
誰にも見咎められない
濡れたような 赤
乞う心だけが
色を持つ
21.Cry for the moon
私は死ななくてはならない
下草の中に身を沈めて
誰にも知られずに
私は死ななくてはならない
純潔だけを代償に
全ての世界を引き換えに
月夜の中に潜んだ
優しさのために
神様が見ている
22.ふたり
この世界に立った二人
始まりと終わりを持って
苦しみと美しさを握り締めて
この世界に立った二人
贖いと罪を負って
この世界にたった二人
23.永遠
私は夢見ている
例えば 遠い潮騒を聞くように
私は目を閉じている
例えば 見知らぬ土地を旅するように
私は貴方を感じている
例えば 美しい花を愛でるように
いつも 心の隣にあった
柔らかく透明な 襞
蠕動する艶めかしい粘膜の中で
私は 目を閉じ 感じている
二度と訪れない 透明な日々
24.3K
キリエ 祈りの言葉
鍵
貴方の心をこじ開け
深く穿ちながら刻印する
貴方のための寝台
貴方のための居間
貴方のためのピアノ
貴方のための 私の全て
25.棘
私は貴方を傷つける
貴方が触れるならば
私は 私の全身で 貴方を傷つける
貴方が私を捥ぎ取るたびに
指を刺し 腕を裂き
爪を立てて 貴方に知らせる
私に優しくしないで
26.パンドラ
誰も知らない扉を 開ける
暗闇から 青い蝶が飛び立つ
ゆらゆらと 風に漂って
ひとつの命が消える
誰も知らない扉の奥
次々と消えていく 青い蝶の波の果て
最後に残された
真っ赤な 蝶の屍骸
27.迷い子
とおりゃんせの 歌声
誰が誰を責めて 誰が誰を罰するの?
躓いた石ころを眺めて
顔のない少年が叫ぶ
悪くないのに!
とおりゃんせの 歌声
私は石を投げられた
蹲って砂を噛んで
顔のない少年と叫ぶ
どこまで行けば 世界は終わるの?
28.記憶
薬指からつながり 腕の下を通って
心臓のポンプを抜けて
脳髄の一番下で燻っている
逆光の横顔
ごくりと喉を鳴らす音が聞こえて
喰われる自分を自覚する
私は 購いの羊
29.おかえり
夜の帳とともに 闇の中で
小さく笑った顔のままで
貴方が両手を差し出す
私には赤い風船を 私の影に黄色い風船を
私たちは 死ぬために生まれ
生まれるために 死んでいく
30.And that's all ...?
ランプを入れて ライターを握って
ブーツに足を突っ込み
破れたジャケットの裾をつまむ
準備はいいよ いつでも飛んで
缶ジュースの温もりで
生きていたような人生だし