■ Green Yellow ■ 一滴の夢/For You
オミズガホシイノ
そんな声を聞いた気がして
私は
小さな如雨露に水を入れ
ポタポタと水を垂らす
小さく揺れている葉が
何かを掴もうとしているように見えて
私は
そっとその先端に触れ
不意に 切なくなる
無心に
愛してほしいとか 傍に居てほしいとか
笑ってほしいとか 怒らないでほしいとか
そんなことを
考えるのではなくて
ただ 今 生きているということを
その存在の有意義を
確信したいだけなのに
私は
揺れる葉先に垣間見える孤独を
受け止めきれず
ただ 鳴らない電話を机に置いたまま
如雨露で水を垂らす
その水の一滴があの人の私への微笑みに
変わっていくことを
ただ 夢みて
■ Thistle ■ 雨音/So I need you
ヘッドホンから聞こえてくる
激しいビートに体を振りながら
何故 私は 泣いているのだろう
かつて 激しく降る雨の中で
全身を射貫かれながら
あなたを追いかけたいと思った
そのときのように
雨の音は私を叩いている
降る雨は地球の引力に導かれ
大地に抱きとめられ
いつしか精製されて
美しく儚いものへ変わっていく
では この私の涙は
何に導かれて
何処へ流れていくのだろう
■ Brown ■ 思い出/N U K E G A R A
何かに呼ばれた気がして振り向いた
夏の午後
遠くでうるさく鳴く蝉に ふと
自分は一人ではないかと
高い樹の梢
圧し被さる入道雲
蝉の声
一瞬の静寂
ポツンと
幹に忘れられた茶色の抜け殻が
不思議なほど瞼に残った
あの夏の日に
私ははじめて全身で兄を呼んだ
■ Aqua ■ 遠鳴/G R A N D P A
自分の体がやっと乗りきる手漕ぎの舟に
一枚の網と自分と麦藁帽子で
魚を追った
波の音と風の音と太陽の音
懐かしむように あなたは窓の外を見た
入道雲を見るとあの海を思い出す
波の音と潮の香り
魚を追って舟を漕いだ 若かった と
たどたどしく こけた頬を輝かせて
あなたは語った
懐かしむ瞳を私の思い出に残して
暑い夏の朝に あなたは
遠い海鳴りの中に還っていった
あなたの骨は真っ白で
私は 最期の苦しみが嘘のような
穏やかなあなたの顔を胸に
ただ 入道雲を眺めていた
■ Silver gray ■ 終わりの夏/S A Y O N A R A
夏蝉の掠れた音が響いて
風鈴の響きが消える
あなたの背中は優しいまま
坂道を下っていく
さよなら
小さく投げた言葉が
庭の木の枝を揺らして
さよなら
小さく返ってきた木霊に
夏の終わりを知った
■ Orange Red ■ 麒麟/R A K U J I T U
ゆらゆらと揺れながら去っていく
幻ののような影を見送り
落日の光に縁取られた
暗いあなたの輪郭を思う
一日が 一秒が 辛いですか
ゆらゆらと揺れている長い影を
踏まないように注意して
私はあなたの背中を見つめています
どうか 気付いてください
それでもあなたの歩いている道は
光の中にあるのです
不安定に揺れるあなたの背の高い影に
花を一輪投げました
■ Midnight Blue ■ 黒い雨/B L A C K R A I N
不意に訪れた黒い雨は
私の体を斑に染め
いかに私が醜くて愚かなものであるのか
周囲に叫んででもいるかのようだった
私は世界が終わればいいと感じた
世界が終わり
美と醜の境すらなくなれば
この雨に打たれ汚れた体もまた
透明で美しい卵に
孵ることでしょう
黒い雨が降った
私の体を斑に染め
天からの鉄鎚のように
■ Crimson ■ 虚像/R E P L I C A
ポツンと灯台のように灯った光は
夏の星のように赤くて
私は過ぎ去った時を思って
膝を抱える
体の奥が痛いほどに冷たいのは
私の半分が空っぽで
微笑む私も怒れる私も
何かを象徴するレプリカだからですか
伸ばした手に 雪
もしも世界が終わっても
きっと気が付かないに違いない
この体の半分は
あなたを追って消えたから
せめて雪を詰め込んで
私は膝を抱える
しんしんと 降る雪の音
橋の欄干に置き忘れられたレプリカ