神話
黎明
黎明の輝きがまだ、その名を与えられてはおらず、漆黒の闇もなお生まれ出でる前。ここに形無きものが在った。形無きものは全てであり、全てであるがゆえに一つであった。
その遠い孤独と恋慕は時という見えぬ鎖で形無きものを苛んだ。形無きものは、その戒めから自ら創りだすことを知った。
形無きものはその白い指で自らを愛し、自らを戒めた。
指を濡らした雫は澄みわたり、輝きという名の美しい人型を生んだ。そして、戒めは黒くその肌を締め、屹立した強さと精をその両手に注ぎ入れた。
形無きものは名づけた。輝きはエクリヴィアラ、闇はカノープス。
その後、形無きものは永い眠りについた。
黎明の輝きはその名を受け、母である形無きものを包み込んだ。闇はその半身として、その分たれた妹を愛した。
まだ、空と大地の区別もなく、生と死の境もない黎明。
ただそこには光と闇が在った。
光と闇
エクリヴィアラは美しい娘だった。
白い肌と白金の髪を持ち、母からその両の命を授かっていた。
カノープスもまた美しい青年だった。
エクリヴィアラに与えられなかった強さと精を受け、豊かに流れる黒髪は濡れたように光に靡いた。
母が図らずも創り出した時の流れの中で、兄妹はただ孤独だった。
時は兄妹を成長せしめ、カノープスに与えられていた獣性をも成長させていった。
その時、悲鳴、哀願、涙、それらは全て闇に消えた。
カノープスのたくましい腕に押しつぶされて、エクリヴィアラはただもがいていた。美しい白い手足は痙攣し、いつしか、力なく垂れた。
兄が恐怖に変わった時、エクリヴィアラはその体液から太陽神ハロを、その涙から月の女神ルカを生んだ。
だが、まだ生まれた二人は幼く、輝くことは出来なかった。
天地
幾度もカノープスはエクリヴィアラを犯した。
抗う術もなく、ただ、自ら創り出した幼い兄妹を守るためにエクリヴィアラはその身を投げ出した。
幼い兄妹はエクリヴィアラを見つめていた。ただ母を哀れみ、カノープスを憎んだ。
エクリヴィアラは兄カノープスとの間の子を産んだ。
最初に生まれたのはスタルナ。エクリヴィアラの記憶を授けられた彼は、未だ輝くことの出来ないハロとルカを抱きかかえ、カノープスから逃れるように駆け上がった。
スタルナの歩いた先は闇の濁りは晴れ、美しくエクリヴィアラの輝きを映した。スタルナは空であった。
次に生まれたのはマイア。美しい濡れた娘はスタルナを支えるようにスタルナの下にその裸身を投げ出した。マイアは空を映す海となった。
最後に生まれたのはディマグア。母と同様、両の命を授けられた彼女は固く体を縮こまらせ、世界の全てを拒絶した。いつしか彼女は大地となった。
憎しみの3女神
ハロとルカは決意した。
ただ、そのカノープスに対する恐怖と憎しみが二人を駆り立てた。
ハロとルカは許されぬ兄妹の子を産んだ。
最初に生まれたのはライア。ライアは形あるものを無に帰し、炎の息と炎の髪を振りたてた。
次に生まれたのはケイ。冷たい青い瞳を持ち、青白い肌を光らせて、ライアの繰り返す破壊に目的を与えた。
最後に生まれたのはクラヴィア。時を見つめる力を授けられた彼女は、ただ唯一二人の姉を止める力を持っていた。
3人はカノープスからエクリヴィアラを守るために、順に伽を行った。
そして3人は、戦いの女神クラシアと死の神ガラ、夜と賭博の神ナハトを生んだ。
世界は2分された。
光と闇に。昼と夜に。生と死に。
その他の神
いつしか成長したルカは美しい娘となった。
守り慈しんだスタルナに恋慕の情を持ち、ある夜、偽りの夢の隙間に入り込み、その思いを遂げた。
ルカは美しい娘を産んだ。その美と愛と煌きを身にまとった娘は、シャトアと名づけられた。
長い時間スタルナを映しつづけたマイアは、その半身を深く沈め、自分の恐ろしい恋情に身を焼いた。
苦しみはいつしか目に見えぬ力を持った。それが風の神ゼアグの誕生だった。
夜の闇にまぎれて、カノープスはエクリヴィアラに似たシャトアを奪った。
シャトアが生んだのは溶けるような白い肌と赤い唇を持つ少女だった。
欲望をつかさどる少女はそれ以上成長することなく、アルメイダという名だけを貰って父の下へ走った。