歩く放射線物質の謎
さて、今日で謎は最終回となります。まぁ、実際にはこのあと、若干の授業とテストと国家試験を経て、晴れて医者という職業につくわけですが、その辺のところはただただ努力あるのみ――という世界ですから、書いてても読んでいてもちーっとも面白くありません(笑)
では、最終回は歩く放射線物質のお話です。
ある年齢以上の方と話していて、たまに感じるのでございますが、「放射線」という単語を聞くと、なんとなく「放射能」が思い出されて、考えが「ヒロシマ・ナガサキ」に至り、なんだかとっても体に悪いもののような思いを抱いて話す方がいます。
まぁ、たしかに「放射線」ってものは必要がないなら浴びないほうがよい代物ではございます。
そのような「放射線」を扱う科が、放射線科ということになります。もちろん、放射線を使わない機械もございますけれども。
日常で一番目にする放射線関係のものは、たぶん、レントゲンでしょうか。胸のレントゲンなど健康診断の中に組み込まれている場合もありますし。体の輪切りを見ることが出来るCTの機械も、原始的な原理はレントゲンと一緒です。最近では磁石を使って体を見るMRIの技術が進歩して、放射線を当てなくても見ることが出来る体の部位も増えました。いいことです。
普通、レントゲンやCTは部屋の中に入っていなければ放射線を浴びません。中に入ったままでレントゲンを撮る場合は検査をする人は鉛のベストを着ています。「えー、患者さんは着てないのに〜」と思う人も居ますが、検査の人は一日に何人ものレントゲンを撮りますから、加算していくとすごい量になっちゃうんです; だから、放射線を扱う人は全員、放射線を浴びた量を調べるバッジを付けているのです。(たまにポカやって、ベストから出して付けていて意味がない人がいたりもしますが、それはご愛嬌ということで/笑)
そのような比較的馴染みのあるものに加えて、RIというものがありまして。これは体の中に放射線を出す物質を注射して、その物質が体のどこに集まるかをみたりします。普通のレントゲンなどでは分からないことが分かる診断方法なのでございます。
大抵、放射線科が使う機械は1階や地下にあります。――重いからです; 最新の機械は機械の心臓部ともいえるコンピューターも小さくなりましたが、ちょっと古い機械になると一部屋全部がコンピューターだったりします。クーラーで部屋ごと冷やしてあげないと検査の機械が止まったりします; 最近の技術の進歩の凄まじさを目の当たりにできる場所、それが放射線科でございましょう。<そこに価値を見出してどうするよ;
ワタクシ達はそのような巨大な機械を行ったり来たりしながら、実習を進めていたのでございます。
その日は治療のお部屋で実習でございました。
放射線を当てる治療もありますが、放射線を出す物質を飲んで行う治療もございます。その日は、甲状腺(喉にある)の病気の方が入っていらっしゃるということで、見学でございました。
その部屋は隔離されています。まぁ、これは仕方のない措置です。汚物等も廃棄物として処理されます。――ここから分かるように、結構厳密に管理されるべきお部屋なのでございます。もちろん部屋に入る際にはスリッパを履き替え、使用したスリッパと使用前のスリッパも分けて管理されます。
――だがしかし、それは全て人間の手で行われている以上、たまには間違いが起きるのでございます。
そして、不運は他の誰でもなく、ワタクシを襲ったのでございます。
見学も終わり、仕事がおしていたドクターはさっさと実習を切り上げるために、まずワタクシ達に放射線測定器を当てました。これは基準値以上を示すと「ぴー」といかにもヤバそうな警報を鳴らしてくれます。
そして、警報は鳴りました。ワタクシの両の掌で;
私「先生、鳴ってます……」
Dr.「そんなん、聞こえてます!」
私「どうしましょう……」
Dr.「手を洗いなさい。警報が鳴らなくなるまで!」
ワタクシ、流水でガシガシ手を洗いました。それはもう、背中に「仕事がたまってんだ早くしてくれ」というドクターの激しい視線を感じながら。
10分後、ドクターは期待の眼差しでワタクシを見つめながら、測定器を当てました。
私「先生……。鳴ってます……」
Dr.「聞こえてます!(怒)」
更に10分後、ドクターは期待の眼差しでワタクシを見つめながら、測定器を当てました。
私「先生……。鳴ってます……」
Dr.「だから、聞こえてますって!(怒)」
そして更に10分後……。
私「先生……。鳴ってます……」
Dr.「……(怒)。もういい!」
ワタクシは基準値を超えたままで外に放り出されました。(別に何か被害があるほどの数値だったわけではありません; ただ、基準値は上回っていただけです;)
Dr.「半減期があるから、どうせしばらくすればなくなるでしょう。僕にはそれよりも大事なことが残っているんだ! 家に帰って手を洗え!」
ワタクシは友人たちからも遠巻きにされる、歩く放射線物質となり、ふらふらと自宅まで帰り、仕方なく、指がふやけるまで自分の家の流しでぼんやりと手を洗ったのでございます。
そして、それから2日ほど、友人たちからは「放射線」と呼ばれ、迫害されました。まるで、小学生が「バイキン」などといって苛めているようでございました。
もちろん、ワタクシがわざと友人たちの体を触りまくって嫌がらせをしたことは、言うまでもございません。
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これにて、「医学生の謎」は終了します。
「医学生の謎」は「医学の何たるか」を語るような偉い代物じゃありません。これはかつて医学生で、今は家庭に入り医者である旦那を支えながら、なんでかSEっぽいお仕事をする羽目になっていたり、法律って面白いゼーと騒いでいたりする奇妙な人間、風間が書いた過去の振り返り日記でございます。
ただ、医学生だった時代を振り返って思うことは、医学生時代は、誠実であることが全てを変えていく力となり得ていた時代であった、ということでしょう。未熟であっても、馬鹿でも、体力限界でも、誠実であろうとすることでそれらの壁を突き崩していけたのです。真っ直ぐ前に進まなくったっていいんです。前方向にさえ向かっていれば(笑) 重要なのはベクトルで、距離じゃないんです。それが許される時代が、確かにあるんです。
いろんな方と出会いました。まだまだお元気で過ごしていらっしゃる方もいますし、既に他界されている方も多くいます。その出会いの全ては、私の中にあり、けして消えません。
それでは皆さん、ごきげんよう。
次は、もしかしたら、妊婦日記でお目見えするかもしれません(笑) そのときはまた、お暇ならお付き合いください。
風間でした。