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 医学生の謎
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これはある医学生の赤裸々な回顧録である――と思いマス。
 

みかん星人の謎

 神経内科――という単語は、もしかしたらあまりなじみのない単語かもしれません。お腹を診る腹部外科とペアになるのが胃腸を診る内科であるように、脳神経外科とペアになる内科が神経内科だと、まぁ、おおまかに思ってくだされば分かりやすいかと思います。たまに、心療内科とごっちゃにしておられる方がいらっしゃいますが、ちっとばかり分野が違うのでございます。

 神経内科の先生に「この疾患の原因は何ですか?」と尋ねられた時、そして不幸にして勉強不足で皆目見当もつかないときは「原因は不明です」と答えておくと大抵は大丈夫です。もちろん、ドクターは「この疾患の(この症状の)原因は何ですか?」とお尋ねになったつもりなのかもしれません(この場合は「ホニャララの萎縮です」などと答えるのが正解)が、疾患そのものの根本原因は不明だったりするので、この場合、質問者の意図と反していても、答えは正解でございます。←代々、先輩から後輩へと口伝で伝えられている神経内科実習の傾向と対策
 これを取り違えた友人Aは、「この腕の強張りかたは何といいますか?」という問いに「不明です」と答えてしまい、失笑されるという事態に陥りました。いくら部活動で疲れていたからといって、これは哀れでございます。
 ――と、たったこれだけ書いただけでなんとなく雰囲気が分かっていただけるように、なんともまったりとしていて(質問の意図を明確にしないほど)おっとりとした、(意味不明の回答を口にしたところでニヤリと笑われるだけという)ちょっと意地悪げな科――それがうちの神経内科でございました。

 時は戻って、実習より約1年前、ワタクシ達は実習前の総おさらいテストを受けます。これに合格しないと実習ができない=進級できないという事態に陥るのでございます。ワタクシは何と、そのテストで神経内科の合格点に1点足らず追試を受けるハメに陥りました。←もちろんワタクシだけでなく、全教科を合わせれば結構な数の追試者が出ます。ツワモノはいくつも受けます。私立の学校と違い、追試にお金がかからないのがいいところです。
 ワタクシは追試が嫌いです。今までギリギリでもいい、受かりさえすれば――という姿勢で生きてきていましたので、この1点足りないという事態はワタクシをとても悔しがらせたのでございます。<これが10点足りなければ、悔しくもなんともないのですね;
 追試は一人ずつの口頭試問で点数の低い順でございましたから、ワタクシは最後でございました。会場に踏み入れた私は、机の上のあるものに釘付けになりました。机の上、神経内科の一番偉い先生の前にぽつんと置かれていたのは蜜柑。
 隣の質問係の先生が出す質問に大人しく回答していた時に、不意に動き出した――そう、それまで一番偉い先生は寝ているかのごとくうなだれ、小さく頭を揺らしていたのだ(きっと寝ていたに違いない/笑)――先生は、おもむろに手を伸ばし、ワタクシが大人しく「ええと、空洞症の症状は〜」などと答えている前でむっちりむっちりと皮を剥き、ムニョミンと蜜柑を食べ始めたのでございます。
 ワタクシが全ての回答を終えた頃に蜜柑を食べ終わった先生は、初めてワタクシを眺め、一言「まぁ、君の場合1点だから、別に追試じゃなくて良かったんだけどね」――じゃぁ、スルナヨ(怒)

 ――ということから分かりますように、この科のまったりおっとりでちょっと意地悪げな雰囲気は、この一番偉い先生からかもし出されているのでございます。

 実習自体は外来を見学し、病棟の回診にくっつきまわり、質問に答えるだけでよいので楽なのですが、一応最後には口頭試問がありますので、それに向けてお勉強はいたします。――とはいえ、約1年前のテストの時とさほど変らない内容でかまわないので、それも比較的楽だと申せましょう。
 しかし、ワタクシは嫌な予感がしておりました。
 口頭試問です。そしてあの先生で、季節は蜜柑の季節なのでございます。

 ワタクシは最後から2番目でございました。(これは学生がじゃんけんで決めたのです)
 次々とクリアした学友達から問題を聞きながら(同じ疾患は試問に出難いのですね)出番を待っておりました。
 ワタクシは部屋に入り、椅子に座りました。目の前の机、あの先生の前にぽつんと置かれていたのはやはり蜜柑でした。
 質問をボチボチとしながら彼はその蜜柑の皮をむっちりむっちりと剥き、ムニョミンと蜜柑を食べ始めたのでございます。そして蜜柑を食べ終えると同時に質問を終え、一言「まぁ、別にこの口頭試問で実習の点数やらないなんてことないんだけどね」――じゃぁ、試問するなよ(涙)
 部屋から出たワタクシは全員が終了するのを待っていた友人に尋ねました。

 私「蜜柑食べてたよね?」
友人「いや、置いてあったけど食ってなかったよ」
 私「試問で点数やらないことなんてないんだとか、言ってたよね!?」
友人「いや、勉強は大事だとか言ってたけど……」

 彼はワタクシの時にだけ蜜柑を食べ、意地悪なセリフを吐くのか!? 何故だ。そんなにワタクシが嫌いなのか、それとも逆でワタクシにだけ素の姿を見せてくれているのか!?
 ――というか、何故、奴は蜜柑を食うのだ!

 そして、その謎は解明されないまま、今日に至っているのでございます。