JSUsed CSSUsed
 医学生の謎
HOME
ホーム > 医学生の謎目次 > 謎
 
これはある医学生の赤裸々な回顧録である――と思いマス。
 

偉い人の謎

 病院にはたくさんの偉い人がいらっしゃいます。患者さんから見ても偉そうな人というのは分かるものですが、学生にとっては偉い人を嗅ぎ分けてお愛想を振りまくことが、身を守る術にもなりますから、たいへん重要でございます。そして、多くの偉い方は、偉ければ偉いほど患者さんには優しいですが、どんな分野にも例外が必ず存在するように、やはり、偉い人なのに周囲に優しくない方も存在しているのでございます。
 私たちの実習でも、確かに存在なさっておいででした。それは、眼科に存在しておられました。学生に優しくないだけでなく、患者さんにさえも優しくない、脅威のお医者さまでございました。

 目の病気――と言って最初に浮かぶのは、たぶん、近視とか老眼とか、そういう日常によく存在するものが多いでしょうか。あとは、お年寄りによく見られる白内障などは、よく手術が行われています。眼科の手術は、当たり前ですが、目を開けたまま手術します。――周りで見ているほうは怖いですが、実際に体験した私の祖母は「知らんうちに終わったバイ(気がつかないくらい、あっという間に終わったという意味)」と言っておりました。最初の痛み止めは痛かったようですが、その後はよくお薬が効いていたんでしょう。
 そんな感じで、眼科には目の病気が集まってきます。手術で日常的なのは、やはり白内障などですが、怪我で起きた網膜剥離や緑内障などの方もいます。病棟にはお年寄りが多かったりしますが、外来にはお子様も多く来るのが特徴です。(実は、小児科以外の科になると、お子さまが外来にいることは少なかったりするのです)耳と目は、小さい頃に悪くすると、せっかく病気自体が直っても視力や聴力が回復しないことがあるので、やはり、気になるところなんですよね。

 眼科の実習も、その他の科と似たり寄ったりの実習ですが、なによりマシンが多いのでドキドキします。視野を測定する機械とか、調節能を調べる機械とか、とりあえず使ってもいいと言ってもらった機械は全部試してみましたが、面白かったですね〜(^^;
 それはさておき。
 数ある科のなかでも、眼科の外来の厳しさはトップクラスでございました。午前の診療がいっぱいいっぱいまでかかるのは当たり前。その後、別の実習が詰まっているワタクシども学生は、昼ごはんを食べる時間も与えられず、空きっ腹を抱えたまま、夕方、ようやく実習から開放されるまで耐え続けるのが日課でございました。それでも、それでも、外来が中堅どころの先生の時はいい。ただひたすら診療が終わるのを待ちながら見学していればいいからです。真に恐ろしきは、偉い人の外来。胸の奥で念仏を唱えるような気持ちで、精神的圧迫に耐えながら必死で待つ昼の鐘――。

 「だれか、外に出て注意してきなさい!」
 その命令が愛嬌たっぷりの友人Aに下ったのは、まだ、外来開始から1時間も経過していないころのことでございました。外来の待合場所から漏れる子供の甲高い奇声は、たしかに耳に気持ちよくないものでございましたが、それはだって子供なわけですし、傍で母親らしき人のなだめる声も聞こえていましたから、ワタクシ達にとってはちょっと耳につく雑音程度のものだったのでございます。――しかし、友人Aに命令した、とっても偉い先生のコメカミには、明らかに青筋が浮いておりました。
 友人Aは待合場所に行き、病院なのでもう少し静かに待ってくださいと、何度も頭を下げて頼みました。はっきり言ってなんで俺がこんなことを……と思ったそうですが、偉い先生の命令なのですもの、仕方ないのですわ。
 しかし、奇声は幾分少なくなったものの、なくなりはしませんでした。ワタクシはいやな予感がしておりました。
 数人の診察の後、落ち着きのない少年が入ってきました。5歳くらいでしょうか。たぶん、間違いなくあの奇声の持ち主でございました。診察室の椅子の上で、偉い先生と少年は、確かにハッタとにらみ合ったのでございます。

 少年「ねぇ、これなに」

 物怖じしない少年は、検眼のための器具に触れようと手を伸ばしました。その次の瞬間のことでございました。

 偉い人「黙れぇぇぇぇ!」

 偉い人が、少年の顎を鷲掴みにし、ガクガクと左右に揺らしながら、威嚇――。偉い人が、患者である少年の顎を掴んで、威嚇――。威嚇!?

 虚をつかれた少年は、気圧されて黙り、付き添いのお母さんはバッタのごとく平謝り。偉い人はコメカミに青筋を浮かべたままで診療。それでも足りない怒りの矛先は全部ワタクシども学生に。
 質問に答えられなくて、激しい嫌味。病棟への使い走り。質問に答えられないことを、日頃の生活態度の怠慢だと断定され、人格まで否定されるに至っても、ワタクシ達に出来ることは耐えることのみ。そう、耐えること、これは学生のただひとつの生き抜く術(かもしれない、実際;)
 ひたすら、スミマセンと勉強しますを繰り返す学生に飽きたのか、偉い人は突然席を立ち、診察室と待合場所を仕切っていたカーテンを開け、開口一発!

 偉い人「うるさぁぁぁぁい!」

 静まり返り、緊張感に包まれる外来。――正気なのか、偉い人!

 のちに、これは日常の風景だということが分かりました。中堅どころの先生と以前実習をした学生の話を総合すると、大体、1ヶ月に1回の頻度でこういうことが起こるらしいのでございます。
 これでいいのか、病院!?
 なぜにここまで偉い人がヒートアップするのかも謎でございますが、なによりも、その偉い人にも少年と同じ年齢のお子さんがいるという事実でございます。家でもやっているんでしょうか、顎に手かけて「黙れぇぇぇぇ!」って;