水虫の謎
水虫といえば皮膚科――というと、なんだか聞こえが悪いでしょうか(^^; ジメジメしとしとな日本では、水虫に油断大敵。靴文化ではなかったのは、もしかして水虫のせい? なんていうことまで考えてしまいますが、ともあれ、今回は「水虫の謎」、皮膚科の実習でございます。
皮膚科の実習も、他の科と同じく、外来の見学&実習、担当患者さんの問診や診察、そして手術の見学と助手――。そう、手術!
皮膚科というと、塗り薬を患部にぬりぬりしているような印象がありますが、手術もしています。ホクロやイボなどを取る簡単なものから、大変な火傷の手術まであるのです。小さな手術は外来にある手術台で、大きな手術は手術室で行われるのが普通です。
外来の実習は基本的にはどの科でも似たような問診をしますが、特に皮膚科では「皮膚に何か問題がおきているから来ている患者さん」なので、目で見ることが大事です。患者さんが「じんましん」と言っていても、実は虫刺されだったということもありますし、「虫刺され」だと言っていたものが、実は他の疾患からきているものだったりしたこともあります。
最初に教えられるのは、皮膚の状態をどういう言葉で示して、ブツブツをどういう単語を使って表現するか――ということです。自分では「赤みの強い、直径20mmくらいの、隆起のない、円形の、皮膚病変」のつもりでいても、正確な単語を使っていないと正確に伝わらないからです。世の中には「定義や単語の意味にこだわるのは本質的でない」というような言葉を発する方もいらっしゃいますが、皮膚科の外来においては「定義と単語の意味を正確に知らない状態では、何もできやしない」のであります。専門に特化した分野にはそういうこと、多いですよね。はぁ(溜め息)
さて、講義を受け終わったら外来実習です。初診の患者さんの問診をして、外来担当のドクターにバトンタッチをするのが仕事です。学生によって作成された問診を参考にしながら、ドクターは診察して処置を行われます。――患者さんが帰った後に、その疾患についての解説と一言コメントをいただいて外来の実習の終了となります。――これが、週3回で2クールありますが、最後の週などは実験室に見学に行ったり、実習のまとめレポートの発表があったりするので、実際には5回くらいですね。
その日の私の担当は、美しいご婦人でした。初老のお金持ちそうなおじさまが付き添っていらっしゃいました。どう見ても夫婦じゃありませんでした;(汗) まぁ、そういうことは頻繁にはありませんが、たまにはございます。
私「今日は、どうされましたか?」
婦人「ミミ、イタイ。アタマ、イボ……。イヤ!」
た、端的でございました。
ご婦人はアジア系の方でしたが、日本の方ではなかったのです; 隣のおじさまは、カタコトの彼女が病院に行くというので、通訳をしてあげようと一緒にいらして下さっていたのですね。
身振り手振りとカタコトの日本語と通訳とで、なんとか聞き出すと、「耳に硬いものができていて気になっていたんだけれど、それが急に痛くなって脹れたので何とかしてほしい」のと、「頭にできものが出来ているのに気がついた。気になるので取ってほしい」というのが彼女の主張でございました。
出来上がった問診票を持ってドクターのところに行くと、早速、診察してくださいます。(ドクターも最初は言葉が通じないので、驚いていらっしゃいましたが;)
耳の脹れは、皮膚が袋状になってしまい、垢が外に出ないので硬く膨れ、そこに細菌感染してしまったもの(ピアスをつけている方の中には、ピアスの穴の周辺で同じようなことになったことがある人がいるのでは?)で、腫れがおさまるように薬を飲んでから、袋状になった皮膚を切り取って処置し、頭に関しては害のないほくろでしたが、本人が取ってほしいということなので切除――ということになりました。
Dr.「来週、ここで処置するから、先生(ドクターは学生をこう呼んだりする)助手してね」
私「は? はい;」
外来には人手が足りないのでございます。
皮膚科の実習は、たしか、まだ初夏の兆しが見える頃――。この外来でのミニミニ手術が、私の体当たり手術助手の最初の一歩だったのでございます。
水虫の謎 第2週
さて、外来の手術の当日でございます。――ですが、手術をする前に、当然ノルマの外来診察実習もこなさなくてはなりません。カタコトの言葉で苦戦した前回を思い出して、ちょっぴり不安だったのですが、不安な顔など見せないのも学生の務め、根性入れて笑顔でございます。
本日のお客様(違うって;)はお子様でいらっしゃいました。
「お名前は?」と尋ねると、舌っ足らずの言葉遣いで下の名前だけ教えてくれて、「いくつ?」と聞くと、小さな指がにょっきりと3本出てくる可愛らしさ。当然、本人は何も言えないので、抱っこしているお母さんからお話を聞くんですが、何がどう悪いわけではなく、足の裏にホクロがあるので心配だ――ということでございました。
足の裏にあるホクロなど、日常的に刺激される場所にあるホクロは癌になる――なんていう話がありますが、実はこれ、全部が全部、絶対に癌になるわけではないそうなんですね。大きいものが癌になるのかというと、小さくても癌のものもあるので、大きさだけでは判断できません。(大きくなってきているものは、癌の疑いはありますけど)
そうやって判断するかというと、ホクロを虫眼鏡で観察するんです。虫眼鏡で見ると、色とか模様とかがはっきりと見えるんですが、その色や模様のパターンから、性質のいいものと悪いもの、どちらともいえないものを判断して、悪いものの場合は切除を考えたりするんです。これは前もって教えていただいていましたから、とりあえずホクロを見てみることに。
私「あんよ、見せてくれるかな?」
少女「あい」
お母さんに靴下を脱がせてもらった足を、掛け声とともに勢いよく上げるお子様。――超絶可愛い(>_<)
丹念に観察。このパターンと色は、性質のよい悪性化しないものの代表だったはず。
まず、お母さんに、ホクロが全部癌になるわけではないこと。色や模様のことなどを説明して、ドクターにバトンタッチ、ドクターから「これは悪性になる可能性はまずありえないホクロです」とお墨付きをいただき、「悪性になることはないと思いますが、どうしても気になるようならとることも出来ますよ」と言うと、お子さんがまだ小さいこともあって、最終的にとることにしたとしても、もっと大きくなってからにしますと言って去っていかれた。
去り際、両手でバイバイするお子様は、本当に、最後の最後まで超絶可愛らしかった(T-T)
そんなこんなしているうちに何故か飛び込みで再診患者さんのカルテが私の手元に。これは、この患者さんを診なさいということだろうか? 暇だったし、ちらりと名前を見てみると、なんだか見たことがある名前が。
これは、とある科の教授のお名前では!? まさか、教授に問診? 教授に問診? 問診するの!?
恐る恐るカルテを開くと、そこに大きく病名が……。
水虫
私、どんなに自分が病気になっても、絶対にもうこの病院かかるのやめよう。将来、子供を生むときも、大学病院使うのやめよう。いつ何処で誰にカルテ見られるか、分かったもんじゃないわよ;
ドクターに恐る恐るカルテを持っていくと、これは学生さんはやらなくていいと慰められる。良かった。(T-T)
さて、怒涛のごとく外来手術に入ります。手術といっても、局所麻酔でやるミニミニ手術です。
手を洗って手袋をして、ざっと機械結び(両手を使うのではなく、糸をはさむ小さな器具を使って結ぶ。慣れればちっとも難しくはない)を教えていただいて、いざ出陣。
麻酔と皮膚の切除は、変な所に刺したり切ったりすると行けないので、ドクターがしてくださり、傷の縫合は私がすることになりました。
――でも、局所麻酔って、麻酔するときが痛いのよね(T-T)
ものすごい声で「痛い、痛い、痛い!」と叫ばれて、ビビリまくる私。まず、耳を2針。傷がゆがむと、見えてしまうところなだけに気を使います。しかも、途中でどうやったらいいか分からなくなっても、口に出して聞くことは出来ません。だって、患者さんに筒抜け。耳元で、「先生、やり方がわかりません」なんて言われた日には、もう、二度とこの病院来るかって、普通、思いますでしょうし; 身振り手振りでの先生のレクチャーを解読しながら、1針やり直したりして、もう、汗びっしょり; 次に頭。耳と違って隠れるので、そこまで大変じゃないんですが、そのかわりに頭皮が固いので針を入れるのが大変(涙) 終わったころにはフラフラ(>_<)
なんとかこなして手袋を外したときは、すっかりお昼ご飯の時間になっていて、薄情な友人たちは全員お昼に行ってしまっておりました。――いくらトロくて見てられないっていっても、待っててよ;
思えば、このミニミニ手術以降、やたらと実践組み込みが多かったのが私でした。もちろん、ちゃんと横にドクターがついていれば、一定限度の医療行為をしてもいいのが病院実習の学生ですから、何も悪いことはしていない(はず)なんですが;
ちなみに、ミニミニ手術で残った手術用の糸はいただいて帰り、飲んだ後の空き缶のプルトップを利用して、糸結びの練習に使用させていただきました。学生の控え室や研修医の生息するあたりには、たくさん、この糸結びの痕跡が残っている――それが大学病院というところでございます。