外病院実習の謎
医学生の実習って、てっきり付属の病院でだけあるのだと思っていたら、実はそれだけではなくて、外の病院でも(ほんのちょっぴり)実習があります。大学病院ではない――つまり、研究をガンガン頑張ったりしない、どちらかというと臨床面でバリバリ頑張ってしまうような病院を見学する、という意味合いがある……のだろうと、思うのですが。たぶん。
グループで移動するので、朝も早よから待ち合わせをし、車に乗り合わせて参ります。車出しはグループ内で適当に決めます。公平に全員が車出しを回すグループもあれば、一番遅い人がペナルティで出すグループもありますし、たまにはグループ内で車を持っている人物が限られていて、いつも同じ人が車を出したりもします。学生のことですから、ガソリンぎりぎりで運転していて、坂道を登る手前でガス欠で動けなくなった――なんてことをやらかすこともありますから、ご注意です。
実習は1週間ずつ、数回に分けて行われます。時期によっては、大雪――異常気象的な大雪が発生したこともございました――の最中を行かねばならないグループもあります。もちろん、そういう事情の場合、遅刻は黙認されますが、休むわけには参りません。学生とは、因果な商売でございます。
私どもも、春と夏と秋と冬に1週間ずつ、せっせと車に乗って外部実習に通ったのでございます。
春の陣は、たしか、マイナー系(内科・外科・産婦人科・小児科のことをメジャーといい、それ以外をマイナーと称していた)の実習でございました。――と言っても、1週間で全部の科を巡れるわけもありませんし、先生方にもグループ全員の面倒を見る余裕なんてありませんから、麻酔科を中心に巡るグループと他の科を一日に1科ずつ巡るグループに分かれます。一日1科のグループのほうが、実習が楽チンです。なぜなら、忙しい業務中に学生の相手なんぞしちゃおれんのが実情だからです。
学生は、はっきりと2つのパターンに分かれます。自分の目的をひたと定めて、大変だろうが何だろうが、確実に自分の実になる実習を行おうとする立派な学生と、自分の目的はあるものの、まだまだ自分に必要なのは社会勉強であると認識し、自由時間を求めようとする普通の学生です。もちろん、状況によってこのパターンを使い分ける学生が大半です。
ワタクシたちもそうでした。その時は、多くの学生が社会勉強を求めようとしたのです。そういった場合、厳正なるじゃんけんによって運命が決定します。
――ワタクシ、負けました。
もう一方のグループが、ほとんど毎日午後から社会勉強に繰り出す中、私たちはひっそり手術室の中でシャンプーハットをかぶっておりました。
そう、シャンプーハット。
ワタクシにとって、外部病院の実習の一番の印象は、シャンプーハットでございます。――これ、実際にはシャンプーハットではなく、使い捨ての手術室内の帽子なのですが、見るからに外見がシャンプーハット以外のナニモノでもないのでございます。
手術室内に入る場合は手術着に着替える――ということは、確か以前に語ったような気がいたしますが、この手術着、病院によって様々なものがあります。ドラマとかでは、青やグリーンの布で作られた簡素なものが使われておりますが、私が知りうる限り、確かにそのようなものが一番無難です。どんな人にも似合います。大学の手術着は、外科系が青、麻酔科が白、看護婦さんがピンク(これ、結構可愛い)で、学生も実習している科と同じ色の手術着を着て、帽子の色だけ変えます。こうすれば、たとえ麻酔科実習の学生と外科実習の学生が混在しても一応は見分けがつきます。(実際には、産科実習の学生と小児科実習の学生が同じ手術を見学したりもするので、分からないときもあります。これに加えて、その手術を麻酔科実習の学生も見学したりすると、異様に人口密度が高い手術室になるわけです)
その病院の女の子の手術着は、なんとも形容しがたいグレー地で、襟元にピンクの縁取りのあるもので、なぜかワンピース形式のものもありました。ズボン用のものがあるのに、なんでワンピースのものがあるんだろうと疑問に思っていたら、看護学生さんが着たりするようです。(実は、着ているのを見つけてびっくりした^^;)
そして、仕上げがシャンプーハット。しかもスケスケ。不織布っていうんでしょうか、紙でできた布を円形に切って、ふちにゴムが通してある、どこからどう見ても、シャンプーハット。
これ、使い捨てなのはいいんですけど、ゴムの部分がゆるいので、髪の毛を結っていても、前髪とか、ちゃんと全部入ってくれないことが多くて、ワタクシ的には不評でした。やっぱり、髪の毛は後れ毛一本にいたるまで帽子の中にしまい込む心意気でかからにゃならんと、個人的には、思うのです。――まぁ、それよりなにより、シャンプーハットであることが、私のさほど強くない美的感覚をギリギリと刺激して、イヤだったのでございます。
手術室に入るのは、どちらかというとものすごく好きだったし、手洗いをして術野に入るのも好きなほうだったけれど、あれだけは許せなかったなぁ……(^^;
シャンプーハットの激しさに心を奪われ、それ以外の印象がない、外部実習春の陣。
何もなかった冬の陣は省略して、衝撃の夏の陣、徹夜の秋の陣が次回でございます。
……とはいえ、来週はお正月でございますから、1回お休み。次回は1月8日にお目にかかりませう。
外病院実習の謎 第2週
外部実習夏の陣。それは、平凡な朝の風景の中で始まりました。内科を中心に巡る実習の途中、確かその時は心臓を専門にして科の実習で、ペースメーカーを使用中の患者さんの、ペースメーカーの電池を取り替えるのを見学するという実習だったように思います。ペースメーカーも永久に動くわけではないので、電池の交換があってもおかしくないのですが、そのときのワタクシには、「心臓の電池交換」という事実が、ちょっとびっくりだったのでございます。ごく稀に、自分の電池交換の日をすっかり忘れていて、大事に至ってしまう方もいらっしゃるようですので、しっかりと心に留めておきましょう。
そう、まさしくその日は平凡な朝でした。鳥は鳴いておりましたし、風はさわやかで、その日は珍しく集合時間に遅刻するものもなく、「俺が(車を)出すよ」とさわやか格好良く決めた友人Aの車(白のスポーツカータイプだった)に乗り込み、私は膝を抱えておりました。←後部座席だったのです;
快適に道を進み、いつもは込んでいる交差点もそれなりの速さで通り過ぎることができるなと、そう感じたその瞬間、ワタクシの目に衝撃の場面が飛び込んできたのです。
オバサンが、原チャリに乗ったオバサンが、視界の端に飛び出しているのは、どうしたことだ?
そう、ここは道。ワタクシ達は車に乗り、込み合った交差点で信号待ちをするために、比較的スピードをおとしながら、前方約75メートルの場所にある、前の車の後ろについて止まろうと減速しているところ……。
運転していた友人Aもすぐに事態に気が付き、すばやくブレーキを踏む。さすがの反射神経。スポーツカータイプなので、ブレーキもよくきく。でも――
キキキーッッ! ガシャン! ドタ!
一瞬、車に乗っていた全員の顔が硬直。今、オバサン、この車の側面に思いっきりぶつかってこけたぞ;
事故ってもうた; 確実にもらい事故(2車線道路の右側車線を走行中、左車線の隙間から左右の確認なく飛び出してきたオバサン原チャリに、車の後方側面をやられる)だけれど、確実に事故でございます。
咄嗟に車から飛び出し、オバサンに駆け寄ると、幸い、しっかりとヘルメットを被っていたおばさんは擦り傷のついた膝をさすって起き上がっているところ。原チャリはバックミラーが外れ、倒れた衝撃で側面が歪んでいたけれど、あくまで原チャリの形状は十分に保っているようす。
私「大丈夫ですか!?」
オバサン「え、あ、ハイ。スミマセン」
とりあえず原チャリを引き上げて、押して手近なお店の店先に置かせてもらうように交渉。慌ててハザードを出してすぐ近くに止まったグループの車に同乗していた別の友人を乗せてもらい、先生に事情を話して遅刻すると知らせてもらうように手配。足の傷を気にしているオバサンを車に乗っけると、近くの交番に直行。
私「怪我は膝だけですか? 手は傷めていませんか? 頭は打ちましたか?」
とりあえず、今の状況を確認してみると、本当に擦り傷だけだったごようす。良かったね、減速中で気付くのが早くて;
交番で事情を説明して、ついでに救急箱を借りて傷を消毒させてもらったのだけれど、この救急箱の中身がショボショボで、マ○ロンと絆創膏だけしかないんでやんの; ともあれ、現場に行って事故を説明して、お仕事にいけないと渋るオバサンを実習先の病院(実際、目の鼻の先だったのだ;)に連れて行き、事情を説明して頭のCTなど簡単に撮ってもらいました。(でも、本当に何もなかった)
結局、示談にしたので、何か持っていく菓子のいいのはないだろうかと問う友人Aに、美味しいケーキ屋を教えてあげました。そしてその後、友人Aは迷惑をかけたお詫びとして、私と同乗していたもう一人の友人にもケーキをおごってくれました。いい人だ。友人A。
平凡な朝に起きた衝撃の現場は、ワタクシから実習の時間を奪い、かわりにケーキをもたらしてくれたのですわ。
さて、シャンプーハットの春の陣と衝撃の夏の陣を終えると、次は徹夜の秋の陣です。なぜ徹夜かというと、救急当直実習だったからです。救急当直実習とは、その名のとおり、夜に当直の実習をするのでございます。何をするかというと、運び込まれた救急患者さんの心電図をとったり、CTを撮影するために運ぶのを手伝ったり、とりあえず学生でもやれそうな雑用を行うのでございます。(心臓が止まっていたら、そりゃ、心臓マッサージもするかもしれませんが、幸か不幸かそういうことはなかったですね)
もちろん、実習ですから運不運はあります。何故だか毎回の頻繁に患者さんが運び込まれて、全く寝る間もなかったというグループもあれば、ほとんど患者さんが来なくて、単に寝にいっただけというグループもございます。
私達のグループは、まぁ、運が良い方だったでしょうか。
実習は3夜行われました。――と言うのも、毎日学生の相手なんかしてられないというドクターの事情と、その他の実習の兼ね合いから、毎日は無理なのでございます。
第一夜こそ、数人の患者さんが運びこまれましたが、その後はさっぱりいらっしゃいません。もちろん、寝てしまってもいいんですけど、それはもう、友人が数人で集まれば、どんなことになるかお分かりでしょう、皆々様!(笑)
トランプで、レート1点1円で――。博打かい;
グループを組んでいれば、まぁ、ある程度の性格や癖は分かるものです。ふふ。
大勝 二人(そのグループは私も入れて3人だった)合わせて2500円ゲット。
人生勉強をして勝った金で、翌日モーニングを3人で食べて、清々しく終えた秋の陣でございました。……でも、お勉強もしたのよ、ちょっとは;