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 医学生の謎
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これはある医学生の赤裸々な回顧録である――と思いマス。
 

手洗いの謎

 さぁ、これからようやく病院実習、白衣を着て病院をうろつくんだ――という前に、手術室で手術の見学をする際に必要なことを学びます。
 手術室内での清潔と不潔の区別の仕方、正しい手術衣の着方、手術野に助手として入る際(手袋をして手術野でお手伝いをさせていただく場合と、その外で手術を見学させていただく場合の2種類があるのです)の手洗いの仕方とガウンの着方などを学びます。

 まず、頭髪は可能な限りきっちりと帽子に髪を入れてしまわなければなりません。ピンやゴムを使ってきっちりとまとめ、後れ毛などもきっちりとまとめます。
 もちろん、ケバイお化粧なんて言語道断です。どうせ、マスクまでするので見えません(笑)し、手術室はけっこう暑いので、マスカラなんかつけていて汗で落ちちゃったら不潔なんですよ。香りが強いのも、非常に困りものです。匂いっていうのは、実はとっても大切な判断材料だったりするのです。

 手術衣はきっちりと体に合ったものを着ます。手術室は温度管理がされていますし、低温での手術の場合は別に上着があるので、下にTシャツとか着たりしません。(別に着ていたいなら着ていてもいいんですが、外に袖なんかが出るような場合は脱ぎます)
 靴下まで、全部、着替えてしまい、手術室用のスリッパに履き替え、マスクをし、手を簡易消毒して手術室に入ります。

 手術野の外で見学する場合は、この状態で清潔区域に手を触れたり体が触れたりしないようにしながら見学します。
 大抵、手術室には足台(背が低い術者が使ったりもする)があるので、それを見やすい位置において、交代で足台に登りながら見学です。

 手術野に助手として入る場合は、手術室に入った後、専用の手洗い台でじゅうぶんに手を荒い、清潔な状態で手術用のガウンを着て、手袋をして不潔な場所に触らないように気を使いながら、術者の傍にくっついて見学します。この、手洗いとガウンの着衣、そして手袋の装着が、けっこう慣れないと難しいんです。

 手を洗う台はセンサーで自動的に水が出る仕組みになっています。足元には空気入れのようなポンプがあって、それを足で踏むと消毒薬が出ます。手を洗う時に使うブラシや、手を拭くための清潔な紙タオルもセンサーで自動的に入れ物が開閉するようになっていて、手を触れることなく全ての作業ができるようになっているのです。

 手の洗い方はいろいろありますが、私の場合は、まず水で普通に手を洗います。その後、消毒薬で普通に手を洗い、ブラシを自動で出し(ブラシの背中が掴めるように容器が開くので、他の場所にブラシも手も当たらないようにして引っ張り出すんですね)、消毒薬をじゅうぶんにつけ、まず手の平から爪、指の間、手の甲を洗います。次はそのブラシで手首から肘までを洗います。このときには手の平にブラシを戻してはいけません。肘まで洗ったら、今度はそのまま、肘から二の腕の中間くらいまでを洗います。
 そうしたら、ブラシを流しに落として、よく水で消毒薬を流します。(このとき、2の腕から下に水が流れてこないように、せっかく洗った腕が流し台などにつかないように気をつけなくてはなりません。脇を閉めすぎていると、腕が術衣についたりするので、脇をあけるようにしながら、周囲に目を配っていないとダメです。もしうまくいかなかったら、最初からやり直しです)また新たなブラシを出し、まずは手首まで、次に肘までを洗います。そして、またそのブラシを流しに落として、腕を水洗いし、再度新しいブラシを取り、今度は手首までだけを洗います。そして、水で消毒薬を流します。もちろん、腕の一部などがどこかに付いたら、最初からやり直しです。
 腕を絶対に何処にも触れないようにしながら、今度は紙タオルを出します。2枚引き出して、一枚ずつ両腕の手の甲にかけます。タオルの両端を反対の手で持ち、引っ張るようにして手の甲から上に向けて水をふき取り、最後は体の内側の端を離して腕からタオルを外し、ゴミ箱に捨てます。反対側も同じように水を拭いたら、できるだけ迅速に、しかし、絶対に洗った手を不潔にしないようにしながらガウン置き場に行き、足でガウン入れの蓋を開けて中身を取り出し、一目散に手術室の開いている場所を目指していき、ガウンを広げます。そうすると、たいてい看護婦さんが着てくれて、ガウンを着る介助をしてくれます。(時々、すごく嫌われている学生がいて、看護婦さんが知らん振りしていることがあるので、めっちゃ怖いです/涙)
 ガウンを着せてもらったら、自分の手袋の大きさを申告して手袋を出してもらい、これもまた不潔にならないように器用に手袋をします。(これが、最初のころは難しいんですね。最初は手の大きさも分からないので、手を開いて見せると、看護婦さんが適当な大きさのを出してくれます。きつかったら次からは半サイズ(手袋のサイズは0.5刻み)上を、大きかったら下を申告するようにすれば、数回で自分のサイズが分かります)
 手袋までしたら、両手を胸の前にしっかりと握り締めたり、清潔野に手を置いたりして、絶対に不潔にならないように努めます。鼻が痒いからといって鼻を掻いたり、頭を掻いたりしてはいけません。即、ガウンも手袋も取って、最初ッからやりなおしです(涙)――鼻が痒い時は、友達に掻いてもらうんですよ(^^;←経験アリ(笑)
 もちろん、その手袋の状態で、お腹の中を触ったりするわけですから、厳密に清潔にするのは当たり前ですよね。(でも、最初はけっこう、やり直しをさせられることが多いですし、手洗い中も隣でドクターが洗いながら注意してくれたりします)

 わたしは、この手洗いは得意な方で、滅多に誉められる事のない外部の学生研修病院でも看護婦さんに誉めてもらっていたので、やり直しになったことはなかったんですが、友人には5回洗いなおしたツワモノが……。そんな彼も今では立派な外科医です。

 手術室では気をつけることが幾つかございます。
 まず、清潔な人の傍に絶対に寄らない。清潔な道具が置いてある場所に尻を向けない。特殊な手術室(人工関節などの手術をする部屋では、手術室内に浮遊する雑菌が手術野に極力かからないように、患者さんの頭の方から風が流されていることがある)では、ガウンを着ていない人は風下から見学するか、もしくは、サイドに設けられた透明の仕切りの向こうから見学する――なんて約束事があります。

 そして、それを守っていないと、看護婦さんからコレデモカというくらいこってりと嫌味を言われたり、注意されたり、時には「出て行け」と言われます(涙) 悲しいです(涙)

 でも、手洗いは基本ですし、清潔と不潔の観念は基本ですから、コレができないと、一歩も前に進めないんでございますよ(T-T)