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 医学生の謎
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これはある医学生の赤裸々な回顧録である――と思いマス。
 

寄生虫の謎

 小学校の頃、シールの寄生虫の検査が行われておりました。
 お尻にぺったり貼るので、我が家では尻パッチと呼んでいました。まだ自分でやれない頃は、モジモジしながら母にシールを差し出していたものでございます。
 小学校の中学年くらいになると、もう、十分自分でできるので自分でやっていましたが、アレはアレで結構、目測を誤ることが多いものでした。(目測誤ったんじゃ、検査の意味がないんじゃ…T-T)

 父はというと、検査の話をするたびに自分が見た事のある(――というより、自分が排泄したことのある;)寄生虫の話を興奮して話してくれておりました。
 話好きのいい父でしたが、寄生虫の話をご飯を食べながらしてくださるのには、幼いながら「アンタ、デリカシーなさ過ぎ」なんて事を考えていた、小生意気なガキでございました。

 医学部に入りますと、当然、寄生虫のお勉強も致します。
 しかしながら、私に多少ながらある知識は、小学校の時の尻パッチと父から聞いた話、あとは犬のフィラリアくらいのものでしたから、まぁ、未知なる学問ではあったわけです。

 当然、まずは講義から入ります。
 話を聞きながら、寄生虫にもいろいろあるんだなぁと、思ったりします。大きさ、形、動物間のサイクルなど、へぇ〜という感じで感心して聞きます。そのときです。

  教師「小学校の時にやっていた寄生虫の検査――ええと、尻にシールを貼る奴――を大人がやらない理由が分かるか?」

 寄生虫が子供に多いから?――いや、そうとは限らない気がするなぁ。あれ、なんで大人は検査しないんでしょ?

  教師「大人は尻に毛が生えているからだ! シールを貼ると剥がす時が痛い!」

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! そうなの? お尻って毛が生えてるもんなの?
 それは予想だにしなかった言葉でございました。――でも、今思うと、どうも私は驚く場所を間違ったようでもありました。

 既に基礎医学の勉強をし始めますと、解剖学用語として生殖器の名前を口に出すことなんて、慣れきってなんでもなくなってしまいます。そういうところは、一般的な女性とはかなり違った感覚になってしまうのでございます。
 ましてや、私は男友達から「男同士の友情は永遠だぜ」なんてことを言われてしまうような奴でございましたから、平気で尻だのなんだの口に出しておりました。
 浮世絵などで、睾丸――男性の精巣、俗称だとキ○タマですが――がすごく大きく、布で持ち上げて歩いているような絵があるのはご存知ですか? あるんですよ、そういう絵が。
 これは糸状虫という種類の寄生虫がおこす症状で、他に足がゾウさんの足のように太くなってしまったりします。そういう絵なんかも授業中に見せていただくわけですね。

  友人A「いや、タマでかくなって最初は嬉しかったんだろうけどさ、ここまででかくなると、最悪だろうな…」
    私「そういうもんなの?」
  友人A「……そういうもんなんだよ。まぁ、お前には関係ないけどな」
    私「関係したくないけどね」

 寄生虫の学問は、寄生虫の講義を受けただけでは片手落ちです。寄生虫は自分の目で確認しなくちゃダメです。見て、それがどんな寄生虫か分からないとね。
 試験では当然、ペーパーのテストに加えて、スライドで寄生虫が映されて、その名前を答えるテストもあります。そのために時間を割いて、寄生虫をスケッチするわけです。

 スケッチのための教室の扉を開けると、机の上に白い物体が入ったビンがズラっと並んでおります。長いものは幅広の板のようなものにグルングルンと巻かれて、大きなものはSの字に曲がって、小さなものはシャーレに浮いて、卵なんかは顕微鏡の上にセットされて、とにかく一見して寄生虫以外のナニモノでもないものが、瓶詰めされて並んでいるわけです。

  教師「適当に、スケッチはじめ」

 なんて、適当なんだ; 適当に人の少ないテーブルに行ってスケッチしていく、そんななか、ブンブンという羽音を私は聞いたのです。

 この音は、夏を思わせるわ。なんだか、嫌な感じがする音だわ。
 振り向いた私の目に映ったのは、網。四角い、片端が結ばれた、網。――そしてその中に居たのが。

 ――蚊? それも網いっぱいの

 友人がちょうど網から蚊をスポイトで出そうとしていた時でした。結ばれた口を解いて、大き目のスポイトを用心深く差し込み、スポッと一匹を吸い込みます。そして、顕微鏡の上に生食塩水を2滴ほど垂らしておいて、その上にプシュっと蚊を出すと、生食に羽根をとられて蚊が動けなくなるわけです。

    私「それ、アカイエカ?(←フィラリアを感染させる蚊)」
  友人A「ううん。ハマダラカ(←マラリアを感染させる蚊)」
    私「え?」

 顕微鏡を覗きながら、ピンセットと針を使って蚊の腹を裂きます。ウニウニと小さな白いものがいっぱい飛び出してきます。

    私「それ、フィラリア?」
  友人A「ううん。マラリア」
    私「え?」

 まさかそんなことが。っていうか、この倍率じゃマラリアの原虫、見えないんじゃない? 絶対フィラリアだって! ――でも、フィラリアって感染すると、タマタマ大きくなっちゃうんじゃ……;

    私「もしもさ、この網の蚊が逃げたらさ…」
  友人A「大変だね」
    私「……(号泣)」

 嘘だろう? 嘘だって言えよ。何が悲しくて蚊の腹を裂いて寄生虫を観察しなくちゃいけないわけ? ねぇ、私、何か悪いことした?

 そんな初心だった私も、今では立派になりました。
 活きのいいサバをおろした時、まな板の上を飛び回る小さな白いゴミのような物体――。
 さすがにサバの活きがいいと、アニサキスの活きもいいわねぇ…
 そして何事もなかったかのように、焼いたサバを食べるわけです。

 アニサキス=サバ虫。刺身用じゃないサバを生で食べちゃったりすると、たまに腹に激痛を覚える。内視鏡で見ると、胃の壁にアニサキスが喰らいついているのが見えちゃったりする。とんでもなく腹が痛いらしい。(親類に経験者有り)

 ビバ! 寄生虫。でも、食中毒には気をつけて。